彼は神に祈る、彼女は悪魔に祈る  




「え、あ、あ、う、」

おれの隣でがすっとぼけた声を上げた。シャボンディ諸島の大画面に映る麦わら屋の姿を捉えたからだろう。
バーソロミューくまに飛ばされたの、と突然おれ達の船に現れたこいつは、最初こそおどおどして控えめで、遠慮がちだったが、今はまるで自分の船のような振る舞いだ。・・・まあ、おれがそうしろと言ったんだが。


「ルフィ、ルフィがいる、大戦争のど真ん中に、ルフィが・・・」
「何度も言わなくても分かってる、ありゃあ正真正銘麦わら屋だ」
「ルフィが頑張ってるのに、私、呑気にテレビでそれを観てる・・・」
「ああ、それもジュース片手に呑気にな。船長の一大事ってのに」
「何も知らなかったんだもん!ローさん知ってて黙ってたでしょう!?」
「煩くなるのは目に見えてたからな」
「当たり前でしょ!大切な船長なんだからっ」

テレビを直視できなくなったは、ぐるっと身体ごとテレビを避けると、一気にジュースを飲みほした。何がしたいんだか。


「ローさん、前にうちの船長と共闘してたよね、ほら、オークションで」
「ああ。そんなこともあったな」
「私も、くまに飛ばされてローさんのところに落ちたし、なんていうか、運命みたいなの感じるよね」
「・・・だから助けろってか。勝手に飛ばされてきた女1人の意見をほいほい聞いておれが船を動かすとでも」


わざと凄むように言えば、は押し黙った。確かに、麦わら屋とは何かの縁で結ばれているような気がする。まあ、悪縁だが…それに、ああいう男は嫌いじゃない。麦わら屋んとこのナンバー3がおれに頼みごとをしてくるってのも、まあ、嫌じゃない。

「お前がこれからもおれの船に残るなら、おれはクルーを引き抜く代償として船を動かす、かもしれない」
「ロ、ロロローさん、それ本気?」

の瞳が揺れている。どれだけ麦わら屋のことが好きなんだ、とそう考えると悪戯心が疼く。もう既におれの中で船を出すことは決まっていたのに、の答えを待つ。

「ああ、全てはお前次第だ」
「〜〜!ありがとうローさん!すぐに動くよね、私帆をたたんでくるっ」

慌ただしく動き始めた、そりゃあそうだ、いくら海軍本部が目と鼻の先とは言っても、麦わら屋の命がいつまで持つかなんて誰にも分からない。

「船を出すぞ、ベポ!!」
「アイアイキャプテン!」












「あああああ、ルフィ…」

ひっくひっくと号泣し始めたの手から、新聞をひったくった。麦わら屋が一面に写った新聞は、他人のおれには全く意味の分からないものだがクルーには泣くほど嬉しい知らせらしい。

「だから嫌だったんだ、お前にこれを見せるのは」
「うっう、ルフィ元気そう…ありがと、う、ローさん・・・」
「で、この写真、何の意味があったんだ」
「私達、シャボンディー諸島で別れる前に、2日後に会おうって約束してたの。でも、それは変更で、集まるのは、2年後って」

の瞳に涙が盛り上がるのを見て、おれは手に持っていた新聞でスパーンと頭を叩いてやった。この泣き虫女は自分に都合の悪い約束の事などすっかり忘れてしまっているのではないかと疑いたくなる。

「ローさん、一目だけ、会いに行っても良いかなあ」

おっと、どうやらそれは杞憂だったようだ。どうやらしっかり約束を守る気でいるらしい。


「それは全て2年間のお前の行い次第だ」
「〜〜!ありがとう、キャプテン!」



2年後、おれはこいつに選ばせるつもりだ。麦わら屋と行くか、おれと行くか。この2年でこいつの頭ん中をがらりと変えてやる。それができる自信がおれにはある。
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